特別研修・認定考査 落ちこぼれ体験記

平成 29 年度司法書士(筆記)試験に合格されたみなさま、おめでとうございます。
心よりお祝い申し上げます。
これまで、さまざまなご苦労を重ねて、受験勉強を続けてこられたことと思います。
楽しかったこと、つらかったこと、くやしかったこと、うれしかったこと。周囲の方への感謝、将来への期待、新たな仕事に対する抱負。感激とともに、さまざまな想いが胸にあふれているのではないでしょうか。

その努力が十分に報われるだけの素晴らしい研修が、まもなく始まります。そしてその先には、有資格者のみに受験を許される、簡裁訴訟代理等能力認定考査が待っています。これまで培った知識をベースに、全くあらたな次元で山のように多くを学びます。

司法書士会の新人研修は、数ある資格の中でも、群を抜いて充実しています。すばらしい講師の先生方はもちろん、これだけの研修を用意し、支えてくださっている先輩司法書士の方々に感謝あるのみです。時に実務家としての講師の先生の生き様に圧倒され、時に同期の仲間と熱く語り合い、高校生活にも匹敵する素晴らしい時間は、しかしあっという間に過ぎてしまいます。

人生に一度しかないこの恵まれた時間を、みなさんが存分に堪能され、できるかぎりの準備をして豊かな学びを得られますよう、私のささやかな体験を記させていただきます。反面教師として、いささかなりとも、みなさまのご参考となりましたら幸いです。

本試験発表後

昨年九月末、次の本試験に向けて勉強に打ち込んでいた私は、まさかの合格のあと、これから何が起こるのか見当がつかなかった。本当に最終合格できるのかと不安のうちに口述試験が終わった。合格証授与式の帰りなどに集まって話をしていると、同期の合格者には補助者経験豊富な人、予備校のチューターや講師ができそうなほど優秀な人が山ほどいた。この中で、認定考査に合格するのは毎年6割程度である。

660名のうち限りなく660番に近い現在地。その上不器用で、理解するのも覚えるのも人の10倍時間がかかる。試験の前には、決まって母の容体が悪くなる。その自分が直近の認定考査に合格するには、早く勉強を始めて、人の 10倍詰め込むしかない。

だが、そのために、なにをどうすればよいのか、当時の私は情報を探しあぐねていた。
合格直後は、それまで塩漬けにしてきた生活上の諸問題、諸手続の片づけに追われる。凍結してきた人間関係もある。時間はままならない。
結局、この時期に準備したことと言えば、悪友に「キビシイね、願を掛けなきゃ」と、禁酒を命じられたくらいだった。

特別研修開始まで

10月中旬に、受験時代通った予備校で認定考査のためのガイダンスがあった。
もちろん出掛けた。対策講座に申し込み、購買部で「認定司法書士への道」を買った。すぐにキンコーズへ持ち込んで、3 分冊にした。持ち歩いて読むには、分厚すぎたからである。

以後、鞄には常にどれか 1 分冊が入っていたが、なかなか読み進まなかった。私にはむつかしかった。

11 月に入って講座が始まると、私は予備校の教室に通いライブで受講した。そして、驚いた。
法学というのは、なんと豊潤な世界なのか。納得する間もなく詰め込むしかなかった受験時代とは、別世界だった。教室に来るのは数人だったが、講義が終わる度、講師は残ってみんなの質問に付き合ってくださった。

裁判傍聴の法廷研修の後、多くの研修生がもやもやしたものを抱えた。そんなとき、腑に落ちないことを尋ねて教えを受けると、霧が晴れたように納得した。

本試験において、私は予備校で受験技術や戦術を学ばなければ合格できなかったと思っている。認定考査も同じつもりで臨んだ。過去問が法務省のHPにアップされていると聞き、早速ダウンロードした。キンコーズへ行って、記述式の要領で冊子にした。
結果から言うと、これは不要だった。認定考査の問題は、片面印刷なのである。試験名と、試験の説明が書かれた表紙が一枚。次頁に、メモのための白紙が一枚。その次に、片面印刷の問題文。これら A4 サイズの紙すべてが、左上一か所でホチキス止めにされている。
解答用紙は、A3 を横長に置いて、表面左頁、右頁、裏面左頁、(右頁)である。

そうこうするうち司法書士会の研修が始まり、考査の勉強どころではなくなった。年末年始こそ勉強しよう、と思ったが、実家へ行って終わった。施設にいる母を実家に連れて帰って正月を迎えた。年々歳相応に弱り、食事介助が必要になった。寝ている間に息が止まっていたら、と思うと怖ろしく、夜中に何度も見に行く。年金、保険、家庭裁判所の手続も溜まっている。

結局、「道」や「事例で考える民事事実認定」、研修のテキストは、ほぼ鞄に入れて運んだだけだった。
空を仰いだが、悔いはなかった。あと何回、母は実家で正月を迎えることができるだろう。
若く自由なうちに司法書士を志す人は偉いと思う。

中央研修でのグループ学習

年が明け1月後半、日本司法書士会連合会開催の中央研修の最後に、裁判業務や倫理を学ぶ。

グループに分かれてディスカッションし、講師のコメントをいただくのだが、このときは、雲をつかむような、煙に巻かれたような、なんともいえない感覚に陥った。不勉強な私には、裁判業務は「経験して掴むしかない」という方向性が漠としたもの、倫理は「これをやったら捕まる」という禁忌を知るものという以上に、理解が及ばなかったからである。

もちろん、机上の空論を論じても始まらない。が、実践を積み重ねても、解析し反省する指針がなければ、プラグマティズムに陥るしかない。己を振り返る基準がなければ、倫理は成立しない。特別研修を終え、時を経た今、そんなことを思う。

特別研修

1月末、司法書士会の新人研修が終わるとすぐに、司法書士法第3条2項3号の特別研修が始まる。すでにこの段階でかなり息が上がっているが、ほんとうのお楽しみはここから、特別研修は圧巻である。

特別研修では、受講生全員が集まって大ホールで講義を受ける<全体講義>と、15 人ほどの班に分かれての<グループ研修>、ふたつのグループが一緒になって弁護士の先生の講義を受ける<ゼミナール>がある。
弁護士の先生の監督の下、ふたつのグループのうち一方が原告側、他方が被告側となっての模擬裁判も行う。
少人数に分かれてのグループ研修は、ゼミナールや模擬裁判の準備の位置づけである。

小山弘先生は、グループ研修のチューターを務めておられ、前期に東京第1グループ、後期に第5グループを担当された。
東京第1グループの私は、前期にご指導を受けることとなった。

初日冒頭、小山先生は、この研修のために、どれだけの費用がかかっているのか、弁護士を中心とする裁判業務において、司法書士はどのような位置にいるのか、具体的な数字を挙げて教示された。

お金の話をされるといやらしいと感じる向きもあるが、経済出身の私にとって、社会の動向を把握する客観的指標として金銭の移動を論じるのは普通である。ガサツな経済学部と違って、観念的な権利を扱う法学部はセンシティブで心優しい人が多いように思う。

ともあれ、簡裁訴訟代理等能力認定を取得しようとする司法書士の卵たちに向かって、先生は檄を飛ばしておられた。
平成 16 年、司法書士に簡裁訴訟代理権が与えられて以降、日本の裁判制度において、司法書士はどれほどの実力を備えたのか、世間は司法書士の業績をどう評価しているのか。君たちは、この現状に甘んじるのか。

…私はそう受け止めた。考え込まざるを得なかった。自分はなぜ、認定考査を受けようとしているのか。裁判業務をやろう、という明確な覚悟があるわけではない。むしろ、争いたくない、できればひっそり仕事をしたい、と前の職場を去るとき思った。

グループの仲間に恵まれ、研修は楽しかった。第1グループは 20 代から60代まで、さまざまな経歴によって発想や考え方、勉強法が全く違った。優秀な人が多く、実に親切にいろいろなことを教えてくれた。
そして、被告側のグループに勝つ気満々で、作戦を練り、日を追うごとに結束していった。

小山先生の指導は鮮烈だった。指名して答えさせることは一切ない。自ら発言し、質問することを求められた。自分の実力のなさを思い知らされた。受験勉強では、5肢の中から、だいたいこれかな、という2肢を選んで解答すれば点を取ることができた。

が、自ら声を発するには、自信がなければできない。答えた先には、「根拠は、条文は」との問いが常に待っていた。ようやく暗記した条文番号をつぶやいたとしても、「その条文には柱書きと但し書きがある」と言われた。暗記することではなく、自分で条文を理解し、自分の頭で考えることを求められたのである。

「予備校のテキストに書いてあった」では実務の場面で主張することはできない。訴訟における代理人は、依頼者の権利を預かって法廷に立つ。法律を根拠として、依頼者の権利を主張する。
法律家となるということがどんなことか、遥かな道の先が、仄見えた気がした。

また、小山先生には、時系列表を作ることを教えていただいた。研修テキストの事例に沿って、自ら作成された表を示された。私たちは、スマホで撮って再現してみた。こうやって必要な事実関係を整理するのか、と思った。
フォームから書体に至るまで端正であった。

特別研修では、ほぼ毎日課題がある。準備ができていなかった私は、やってもやっても追いつかなかった。初めは復習ノートを作っていたが、すぐに翌日の課題を準備するだけでいっぱいになった。
それさえ、なにをどう勉強すればよいのか全く見当がつかない。自分が作った出鱈目な訴状も、どこがどう間違っているのかわからない。

厚顔無恥を承知の上で、小山先生に添削していただけないかと願い出た。先生は形式の基本から用語の誤り、句読点の打ち方に至るまで赤を入れ、「見出しをつける習慣」と注意書きをしてくださった。

のちに、模擬裁判の講評のとき、弁護士の先生から、「尋問でなにを聞きたいか、見出しを言ってから質問したのでわかりやすかった」と褒めていただいた。

今思うと暖かなご指導をいただいたが、渦中は厳しかった。次々に問いかけ、条文を問われた。自ら学ぼうとしない限り、相手にしようとされなかった。「それでは法律家とは言えない、そのへんの通行人と同じだ」と言われた。
「法律家は道を通行してはいけないのか」と、内心反発したこともあった。

民法の要件が異なる請求原因をいくつも並べて訴状に書くと、矛盾するのではないか、と思って質問したときには、「そんなの
は書生論議だ、小学生のレベルだ」と叱責された。平手打ちほどの衝撃を何度も受けた。
さながら、道場で立ち向かっても立ち向かっても、竹刀を構えるや瞬時に軽く弾き飛ばされるが如くであった。あまりの刀捌きに小気味よくさえあった。

私にはむつかしかった受験参考書について、小山先生が「アンチョコで安易な勉強をしても力はつかない」と批判されたことがある。

考え至らない私は思った通り口にした。
「試験に受からなければ始まらない。そのために受験勉強をすることは必要なのでは」。

小山先生は、矢継ぎ早に論点を問われた。なにも答えられなかった。しかし、11月の予備校の講義で、岡口判事の問題提起も、今問われている数々の論点についても、教えを受けていた。講義を聴いて、あれほど感動した。それなのに、なにひとつ自分の言葉で語ることができない。心底悔しく腹立たしく、情けなかった。

その日家に帰ると、「ばかやろう、ばかやろう」と泣きながらカレーうどんを煮込んだ。

認定考査に向けての勉強

3月に入って特別研修が終わった後、認定考査に向けて勉強を始めた。

途中だった小山先生の「認定考査対策と要件事実の基礎」(日本加除出版)を読み終え、司法研修所編「新問題研究 要件事実」(法曹会)を読み直した。
記述式の雛形の要領で、基本的な請求の趣旨、訴訟物、請求原因事実や抗弁がすぐ書けるようドリルを繰り返し解いた。

考査までに 10回やればある程度覚えられると思ったが、6回しかできなかった。過去問も第1回から第15回までを7周は解きたいと考えていたが、5周しかできなかった。

訴状をどのように構成するか、どのように書くか、については、ひとつの正解があるわけではない。解釈がさまざまあり得る。初めは「対策と基礎」の解説、各予備校の解説を読み比べて納得できる書き方を考えた。特に、倫理にはそれぞれ個性があった。
小山先生は、常に条文に忠実に、依頼者の立場に身を置いて考え、記述されていた。何度か写経した。後半は時間との勝負になってきて、家にいる日は過去問を 4年分解いた。

私は記述式が大の苦手だったので、考査のように、問題文を読み文章で解答する試験は数をこなさなければだめだと考え、2校の模試と、小山先生のweb講座の模試を申し込んだ。小山先生の模試は解答を送付すると採点していただけるとのことであった。
本試験より緊張した。蛮勇を奮ってポストに投函した。ほどなく返送されてきたときは怖かったが、前に進むしかないと思って開封した。
意外にも、励ましの言葉を頂戴した。
そして、細かく問題点を指摘していただいた。

また小山先生は、第1回から第15回までの過去問を解いたら添削してくださると言われた。5周程度で答案を見ていただくのは気が引けたが、時間がなくなってきたので思い切ってお送りした。15枚の答案すべてに、間違いを指摘し、用語の使い方を正し、コメントを書いてくださった。うれしかった。自分の弱点や思い込みに気づかされた。
そして、請求原因事実を箇条書きするときは、要件事実ごとに分けて書くよう指導された。

認定考査の1週間ほど前に、訴訟手続と立証の基礎理論のまとめを送信していただいた。バインダーに綴じて3回読んだ。認定考査とはどのような試験なのか、俯瞰できた気がした。

模試を受けただけの受講生にこれだけの支援をされる先生は、どれほどの思いを込めて対策講座を立ち上げておられるのだろうと思った。

考査当日

こうして、6月4日、認定考査を受けた。問題文の分量が多く、事実関係の把握に苦戦した。小山先生が指導されてきたように、時系列表を作った。
周りがどんどん解答用紙を埋めていく中で、事実関係の把握が勝負だと考え、30分以上をかけて表を2回書き直し、整理した。終わった直後、2か所の間違いに気づいた。

その後

考査の後、やるだけやった、と思っていた私は、小山先生から「できるだけ記憶の鮮明なうちに答案を再現してください」と言われ、慌てた。
そうだ、やるべきことをまだやり終えていない。

受かった気は全くしなかったが、今なら何をどう勉強すれば合格できるか、はっきりわかる。「対策と基礎」を、通して何回か読み、過去問を納得いくまで繰り返し解く。
「新問研 要件事実」などを読み込む。「簡裁訴訟代理等関係業務の手引き」の Q&Aを繰り返し読む。倫理と業務範囲に関し、司法書士法の該当個所に、どこに何が書いてあるかわかるまで条文を読み込む。

考査の結果はともかく、4か月近く過ぎた現時点では、考査当日の力さえもすでに落ちている。今の自分は全く合格証を受けるに値しない。考査のあと簡裁訴訟代理に関して勉強したことと言えば、小山先生の「司法書士の裁判事務」(日本加除出版)一冊を読んだだけである。(ちなみに、試験前にこれを読んでいれば、考査に必要な知識を整理するために大いに役立ったと思う。)

これから、開示請求した答案を検証して、勉強をやり直そうと思う。やはり私は人の10倍時間がかかる。昨年10月から、本気で取り組んだ。だが振り返ってみれば、所詮お釈迦様の掌の上で飛び回っていたに過ぎない。

豊富な実務経験で聞える小山先生でありながら、いやむしろ、おそらくはだからこそ、「実務ではこうだ」と上から相手を捻じ伏せる態度を取られたことは一度もない。常に謙虚に、条文に忠実であろうと立ち返っておられるようにお見受けした。私たちにも同じ地平に立つことを要求されているように思われた。
しかし師の胸中を拝察するのは愚かなことであろう。

依頼を受けて実務にあたるときには、「魂が試されている」。先生が語られた言葉である。

* 参考文献について

特別研修の案内と共に送られてくる膨大な参考文献リストに戸惑ったが、難解な書籍を書棚に入らないほど揃えても非現実的な気がして、私はこの段階では買わなかった。
講座や研修で紹介されて興味や必要性を感じた段階で購入した。特別研修に入ってからチームメートに見せてもらって欲しくなった本もあった。
予備校の購買部に置いてある本は割引で購入した。書店では取り寄せとなる本が多く、この場合は日数がかかることを覚悟しなければならない。特別研修中に発注しても間に合わないので、先見の明のある仲間から借りて必要箇所をコピーさせてもらっていた。
関東では、特別研修に先立つブロック研修の期間に、出版元が出店を開き、現物を手に取って見ることができた。この機会を利用すれば、割引価格となり、配送料サービスで自宅へ届けてもらうこともできる。
法曹会発行「書記官事務を中心とした和解条項に関する実証的研究」は、書店での取り扱いがない。機を逃した私は、後日霞が関の法曹会館へ行くまで入手できなかった。

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